とんとんとんとん名古屋の城は 高い城で 一段上がり 二段上がり 三段目のお座敷見れば よいよい良い子が三人ござる 一で良いのは糸屋の娘 二で良いのは人形屋の娘 三で良いのは酒屋娘 酒屋娘は器量がようて 京で一番 大阪で二番 嵯峨で三番 吉野で四番 御所で五番の姉さん見れば 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿が百合の花 「としやん」 おじいちゃんは、俊子という名前のわたしをそう呼んでいました。 「これを歌いながら手まりをつくと、たーんとつけるんやで」 たーんと、とは、いっぱいのことです。あぐらの中で振り返ると、しわしわののどに向かって、ききました。 「たーんとて、なんぼぐらい?」 「そうやな、百ぐらいかな」 ずっと、そう信じていました。つい最近、指を折りながら歌ってみたら、どうやら、まりは、120回はつけそうです。生きていたら、おじいちゃんはこういうでしょう。 「たーんとは、たんとや」 あの頃、人は、みんな大らかだったような気がします。思い出の中のおじいちゃんは、「だんない、だんない(心配せんでもええ)」といって、いつもゆったり笑っています。 |
うちの裏の千松は 八つで八幡に参られて 八幡の若い衆に誘われて 手には二本の矢持って 足には紅梅足袋はいて 紅梅山から火がついて 消しても消しても青松で 松屋のお門で松三本 竹屋のお門で竹三本 もう一本太竹を(細竹の時もある) 手にも足にもあわいで 大きな川にはめよか 小さい川にはめよか やっぱり大きい川(小さい川のときもある)に どぶどぶどぶ…… 最後は、「どぶどぶん」といいながら、膝の上から揺すり落とされる。それがおもしろくって何回も歌ってとせがんだものです。「忙しいからあとで」などと、いちども断わられたことがありませんでした。 |
城の番場で 日和がようて 合羽屋が 合羽干す にわかに天狗風 合羽舞い上がる 合羽屋おやじは うろたえ騒いで 堀にあがる 冷たいわいな 上げておくれ おおきにはばかりさん 一里二里なら 伝馬(船)で通う 五里と隔てりゃ 風だよ〜 一生仕事につかなかった祖父は、若いころから壮年期にかけてはお座敷遊びに明け暮れていた、ときいています。これは、お座敷歌の一つのようです。幼い頃、家に呉服屋のおかみさんが来て、宴会芸にと教わっていたのを覚えています。こっけいな踊りがついていて、実は、見よう見真似で、わたしも踊れるのです。 藤山寛美さんがまだ健在だった頃、テレビで何の気なしに新喜劇を見ていると、なんと、お座敷場面で、この歌を歌いながら寛美さんが踊っているではありませんか(振りは少し違っていましたが)。思わず居ずまいを正してしまいました。祖父以外の人の口から、この歌を聞いたのは、後にも先にもこのとき一回きり。しかも、祖父の没後、四十年近くも経っていたのですから、祖父に再会したような不思議な感じがしました。 |
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昔 丹波の大江山に 鬼ども多くこもりいて 都に降りて人を食い 金や宝を奪いける (ここからはべつの歌) ……(前半は不確か) 後なる鬼べのいうことにゃ ふんどし 忘れて叱られた よいよいよいの よいよいよい おじいちゃんのあぐらの中で、昔話を聞く。それは、ラジオもテレビもない時代には、とても楽しいひと時でした。おじいちゃんのお話は、いつも決まって「ぶんぶくちゃがま」か「酒呑童子」。それを繰り返し、繰り返し話してくれるわけですが、少しもあきませんでした。そのときの声色や仕草で、お話は、いつも初めて聞くような新鮮さがあったからです。それが、「語り聞かせ」のいいところなのでしょう。 上の歌は「酒呑童子」のお話のついでに歌ってくれた歌です。鬼退治をしたという「渡辺の綱」の謡曲を謡ってくれたこともありましたが、これは、振り絞るような声が苦しそうで、あぐらから抜け出したものです。 戦後、家財を売り食いして何もかもなくしたにもかかわらず、「渡辺の綱」の謡曲のレコードは、風呂敷包みに結わえられたまま、今も私の手元に残っています。 一つ ひよこが 飯(まま)食うて たいらく ないない 二つ 舟には 船頭さんが たいらく ないない 三つ 店には おもちゃが きらきら 四つ 横浜 異人さんが たいらく ないない 五つ 医者さんが 薬箱 たいらく ないない 六つ 昔は 鎧 兜で たいらく ないない 七つ 泣きべそ ひねりもち たいたく ないない 八つ 山には こんこんさんが たいらく ないない 九つ 乞食が おわんもって たいらく ないない 十で 殿様 おんまに乗って たいらく ないない …… 二十二階から、おばけがひょろひょろ これは、身振り手振りがついている。それは、しっかり覚えているが、十一から十九までの歌詞が思い出せない。たしか、巡査さんやら産婆さんやらが出てきたように思うが、忘れてしまった。「たいらくないない」とは、単に囃子言葉ではなく、意味があるように思う。 向こう横丁のお稲荷さんへ さっと拝んでお仙の茶屋へ 腰をかけたら渋茶をだした 渋茶 よこよこ横目で見たなら 米のだんごか 土のだんごか おだんごだーんご(ちょっと最後は、あやふやです) 京都の今宮神社の境内にある「あぶり餅」屋ですが、「いち和」と「かざりや」の二軒の茶店が、派手な客引き合戦をしています。だんごよりそちらのほうが名物といっては失礼ですが、向かい合っている茶店の間を通りながら、どちらかに決めるのには、かなりの勇気がいります。「♪ こっちのだんごか、そっちのだんごか、おだんご屋こわーい」ということに、あいなります。
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