寒がりやはよっといで

(こんやは、ずいぶん冷えること)
おばあさんは、夜中にお手洗いにおきたとき、そう思いました。
居間を通りかかると、こたつのふとんから、明かりがもれていました。
(おや、たしかに、ねるまえに消したはずなのに……。でもちょうどよかった。
こたつであったまってから、ふとんに入ろうかね)
おばあさんは手さぐりで、こたつのそばまでいくと、冷えた足をつっこみました。
「うーん、あったかい、ごくらくごくらく」
おばあさんは、こたつに腰まで入ると、ぐーんと手足をのばしました。
とってもいい気持でした。おばあさんがうとうとしかけたときでした。
どこからか、スース-という寝息がきこえてきました。
「はて、みょうな」
おばあさんは、ねむいのをがまんして、体を起こしました。
あたりは、しーんとしています。
(なーんだ、きのせいだったのね)
おばあさんは、ほっとしました。
ところが、しばらくすると、どこからかまた、スースーという寝息がきこえてきました。
おばあさんは起きあがり、暗やみの中でじっと目をこらして、
寝息の聞こえてくる方を見ました。
すると、どうでしょう。
こたつの反対がわで、たぬきの子どもが足をつっこんで、寝ているではありませんか。
「な、な、なんと、こだぬきさん……」
おばあさんは、びっくりしまいたが、
(今夜は、外も冷えきっているんだわ)と思い、
こだぬきが目をさまさないように、そっとこたつにもどりました。
(たぬこの子どもとさしむかいで、こたつに入っているなんて……。うっふっふっ)
おばあさんは、ゆかいになってきました。
(こだぬきの足って、どんなだろう?)
おばあさんは、ふとんのすきまから、こたつの中をのそきこんでみました。
そして、びっくりしました。
こたつの中には、たぬきだけではなくて、きつねに、ふくろう、りすに、なんと
くままでが入っているではありませんか。
いったいどうしたことでしょう。
たぬき、きつね、りす、ふくろう、くま……。
「あ、もしかしたら」
おばあさんは、おもいあたることがあって、
そっとこたつをぬけだすと、おふろばまでいきました。
そして、「やっぱり」とうなずきました。
おばあさんは、この間、町でかわいいおふろ用の足ふきマットを買ってきたのです。
くまやたぬきなど、森の動物たちがいっぱいおりこんであるマットでした。
おふろ上りに足をふいて、ぬらしてしまったそのマットを、
おばあさんは、おふろばの窓にほしておいたのです。
そのマットの動物たちが、今は一匹もいません。
「やっぱりそうだったのね。
ぬれたまま夜風にあたったもんで、体が冷え切ってしまったのね。
うっかりしたわね、ごめんなさいよ」
おばあさんはそういうと、もぬけのからになったマットを。家の中にとりいれました。

よく朝、おばあさんがおふろマットをみると、
動物たちはちゃんとマットの中にもどっていました。
こだぬきも、きつねも、りすも、くまも、ふくろうも、
夜中にこたつであたたまっていたことなど知らんぷりで、
すましてマットの中にいました。
「それでいいのよ、わたしはなにも見なかったんだから」
おばあさんはそういいながら、おふろマットを庭に持ち出すと、、
いちばん日当たりのいい垣根の上にほしました。
う、うーん。
あたたかいお日さまの光をあびて、マットの動物たちがいっせいにのびをしたのを、
おばあさんは、見てしまいました。
(おやおや、なんと)
おばあさんは気がつかないふりをして、落ち葉をはきはじめました。
「わたしは、なーんにも見てない。なーんにも知らない。♪ ララララ、ラ〜」
おばあさんは、うきうきしてきました。
「それにしても、なんて、寒がりやのマットなんだろうね。しかたがない、
今夜もこたつをつけっぱなしにしておこうかね」
おばあさんのひとりごとに、
マットの中の動物たちの耳が、いっせいにピクッと動きました。
でも、おばあさんは、うっかりそれを見のがしてしまいました。
ざんねんむねん、またこんど……。





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