「とんがり森の魔女」(講談社 青い鳥文庫)


   あとがき                         

 

アンモナイトのようなかかとや、長くのびる手……、森に住む不思議な魔女のあれこれを書いているうちに、森の素晴らしさに気がつきました。やっかいなクモの巣さえ、森の中ではレースのように輝いていましたし、どんぐりのころげ落ちる音ですら、のびのびと自由を謳っていました。近くに森があったらいいのに……と思って(はっ)としました。というのも、わたしが住んでいる泉北ニュータウンは、もともと森だったところなのです。四十年近くも前に森をこわし、谷を埋めて大々的に開発してできた町なのです。市内に比べると緑が多いといわれていますが、それでもこの町をつくるために多くの自然を失ったのです。谷が埋められたときに川に生息していた多くの生き物や、崖に咲いていた数々の山野草が姿を消しました。三十数年前に引っ越してきた当初は、まだイタチが庭にいましたし、リスやタヌキやキジの姿もみかけました。あの、リスやタヌキたちは、どこに行ってしまったのでしょうか。昨今、カラスが生ゴミを荒らすという苦情が絶えませんが、ここはともとカラスのねぐらでもあったのです。じわじわと追われていく動物たちは、どこへ帰ればいいのでしょう。

 

地球の酸素の三分の一を作りだしているアマゾンの熱帯林が開発のために消えているそうです。アマゾンの森は、この四十年で二割近く消失したということです。一か月前までジャングルだったところの木が地平線の果てまでなぎ倒され、生物が死に、川は汚れている現実は広がっていくばかりです。先住民の代表者がアマゾンの保護を訴えて世界各国を回っているというニュースを一年前に週刊誌で読みましたが、そこには、アマゾンの森がなくなれば、世界が滅びていくと書かれていました。恐ろしい勢いで破壊されていく森を、守りきることができるでしょうか。失われていく原因は天災ではなく人災なのですから、止められるはずなのです。なんとか森を守りたいという思いにつながったときに、魔女ダイラが大きく羽ばたきました。

 

 「とんがり森の魔女」』は、二〇〇五年三月に毎日新聞に連載されました。担当記者の石村綾子さんからの「いつか本になったらいいね」のひとことは、大きなはげみでした。が、単行本にまとめる力がないまま、大好きな物語としてひっそり温存していました。

今回、「青い鳥文庫」から出版していただくことになったのは、編集者の谷口さんとの出会いがあったからにほかなりません。連載物を一冊の本にするための適切なアドバイスをいただき、そうか、そうなんだ……と、目からうろこが落ちる思いがしました。「かせ」を解いてもらったおかげで楽しみながら追加の物語を書くことができたのですが、魔女の一年が人間の七年という設定のために、登場人物の出会いにつじつまのあわないところが出てきました。またみさかいなく物語を書き足したために、物語のあちこちにたくさんのほころびも見つかりました。そのたびに谷口さんのチェックが入り、書き直すというくり返しでした。わたしが、「これでかんぺき」と思ってからも、鋭い指摘は続きました。彼女の投げ出さない根気とアドバイスのおかげで、とんがり森でくりひろげられる魔女の世界が、地球の環境問題と違和感なくからみあって、限りなく広がっていきました。

根気といえば、魔女もかなりの根気の持ち主です。何百年もの間、めげないでわたしたち人間にメッセージを送り続けてきたのですから。そのメッセージが、どうぞ、あなたの心に届きますように。届いた瞬間から、あなたもりっぱな魔女のたまごです。

市居みかさんの楽しいイラストが、魔女の世界に導いてくれることと思います。